歴史余話

歴史の深層、歴史あれこれ 九州学院の卒業生でも意外に知らない学校の歴史エピソードやこぼれ話などをご紹介します。

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 第十七話 西一郎元院長 九州学院への深い想い(1)

西 一郎 九州学院第6代院長

西 一郎 九州学院第6代院長

 西 一郎 九州学院第6代院長は、1985(昭和60)年4月から1994(平成6)年3月まで、九州学院院長として九州学院の発展のために重責を果たされた。先生は本学院を卒業後、アメリカのペンシルバニア州のティール大学(Thiel College)に留学された英語の教師である。院長在任中は、国際交流に力を入れ、1979(昭和54)からアメリカへの研修旅行を始め、1990(平成2)年にオーストラリアのインマヌエル・カレッジと姉妹校締結をして留学生の交換や研修団の相互派遣に尽力された。また、1991(平成3)年の創立80周年を期して、幾多の困難を克服して男女共学への移行を実現された。施設面では敬愛寮の西棟、3号館の建設など設備の充実のほかに、情熱溢れる姿勢で九州学院の発展に寄与された。
 尊父は本学院の旧制中学の1回生で1916(大正5)年3月の卒業で、西院長も新制高校の1回生で1949(昭和24)年と、奇しくもどちらも1期生である。
 この遺稿は、人一倍母校を愛された西院長の回想録などの一部である。長文のため、2回に分けて紹介する。

◎「九州学院の宝」西一郎 元院長 遺稿(平成14年記)

はじめに

 新世紀を迎えて創立90周年を祝った九州学院は、特別な恵みを受けている学校です。何千、何万というアメリカのクリスチャンの祈りと献金によって生まれ、そして今は二万を越える同窓生の母校愛によって支えられている学校です。
 九州学院創立のために尽力されたブラウン博士は、アメリカ南部の教会から派遣された宣教師です。当時の南部は南北戦争に破れて日も浅く、精神的にも経済的にも苦しい状況にありました。しかし、ブラウン先生は、熊本の地にキリスト教に基盤を置く学校を建て、若い魂の教育を始めようという強い決意に燃え、南部教会本部を説得し、各地方教会を廻って募金を募り、幾多の困難を乗り越えて土地を購入し、本館を建て、学校開校を実現されました。
 明治、大正、昭和そして平成と、学院は多くの恵みのなかに困難な時代を乗り越え今日の高い評価を得ています。学院卒業の皆様にはすでにご承知の内容ですが、“九州学院の宝”の数々について一文を書いてみました。ご一読の上ご意見を賜れば幸いです。

九州学院の宝・創立者遠山参良先生

遠山 参良 初代院長

遠山 参良 九州学院初代院長

 九学の最高の宝は、遠山参良先生です。人格・識見共に優れた遠山先生は、当時の第五高等学校(現在の熊本大学)で英文学の教授をしておられましたが、信仰の友である宣教師ブラウン先生の強い要請に応え、地位も恩給の権利も捨てて初代院長の責任を引き受けられました。
 遠山先生は九州学院の歴史と伝統の基を築かれました。“知育、体育、徳育、霊育”を教育の四つの柱とし、”敬天愛人“を校訓に定め、”自分で自分を監督し、役に立つ善人となれ“と教えられました。卒業生一人ひとりの心に深く刻み込まれている教えです。心も体も成長期にある若者たちにとって、生涯の指針となる教育の基を定められました。
 校名を挙げるための進学教育やクラブ活動に重点を置くことでは無く、遠山先生は人格形成のための魂の教育を重んじられました。甲子園出場の望みがあった野球部の決勝戦が聖日(日曜日)に組まれたために棄権を決断されたことや、第1回の120名の入学者が中学5年の卒業時には49名になっていたことなど、遠山先生の厳しい教育方針を示しています。院長室での執務中に倒れ殉職されるまで、遠山先生は生命を賭けて全人教育に取り組まれました。遠山先生は九学の無比の宝です。

九州学院の宝・国際性

 第二の宝は国際性です。前述の通り、九州学院はアメリカのルーテル教会の祈りと献金によって生まれ、ルーテル教会を通じて北欧諸国やオーストラリアなど世界の国々との繋がりがある国際性の豊かな学校です。戦前は資金援助とともに宣教師の先生方が派遣されており、現在も毎年二人の米人教師がフルタイムで働いておられます。
インマヌエル高校との姉妹校調印式

インマヌエル高校との姉妹校調印式

 人的交流として、アメリカの教会は二十年近くにわたって高校生の研修団を受け入れてくださいました。このプログラムは全国の他の学校に先駆けて実施され、毎年30名前後の生徒たちがホームステイを中心にアメリカの生活を直接体験し、見聞を広め国際理解を深めることができました。また、半数近い教師が代わりあって生徒を引率し、アメリカの高校や大学での教育実情を学ぶ機会が与えられました。オーストラリアのアデレード市にあるインマヌエル高校との留学生の相互交流や、韓国・木浦市の文泰高校との教師の交流も十数年続いています。
 最近の修学旅行先として、中学生は韓国へ、高校生は中国へ行っていますが、英語コースの生徒はイギリスでの研修が中心になっています。
 別項目として書くべきかも知れませんが、米人教師の存在は九学の英語教育の大きな力になっています。現在では県や市町村でも外国人教師を雇い、小学校の上級学年にも英語教育を導入する時代になりましたが、九学の英語教育は創立以来、文法英語に偏らず、“聞く、話す”分野を重視してきました。その成果として、中学生レベルでの最も権威がある高円宮杯(旧高松宮杯)英語弁論大会で、全国優勝8回、準優勝、5位以内入賞8回と他校の追従を許さぬ素晴らしい金字塔を打ち立てています。今年も全国4位のお見事な成績に輝きました。高校生も各種弁論大会で頑張っています。これらの素晴らしい成績は、直接指導される邦人教師が米人教師と二人三脚で日頃の英語教育に取り組み、生徒の学力向上のために努力精進している結果です。

九州学院の宝・指導教師陣

 九学にある得難い宝は、愛校心の強い教師集団です。私学の強みは、母校には常に恩師の先生方が健在であることです。それぞれの教科での一致協力が素晴らしい教育効果を上げています。クラブ活動や課外指導にも積極的です。
 九学の先生方は、勤続二十年、三十年のベテラン先生で、中途退職は皆無に近く、生徒との結び付きが強いことが特徴です。特に、教職員の約半数をOB教師が占めている学校は全国的に少ないでしょう。教師・生徒の関係に加え、先輩・後輩の親しい結び付きがあります。クリスチャンの先生方が3割強で、教職員が学院の教育方針をよく理解し、九学教育の基礎であるキリスト教教育を支えてくださっていることも力強い限りです。(次回へ続く

みなさんがご存知の九州学院の歴史をお教えください。

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[ご連絡先] 九州学院事務室 TEL:096-364-6134